個性を引き出す希代の天才s-kenのルーツ。お上に楯突く歌舞伎、浮世絵、春画、狂歌。江戸ストリートカルチャーに見る日本人の美学(2/2)

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INTERVIEWS:
s-ken / ミュージシャン、プロデューサー、ライター


ピストルズもクラッシュもデビュー前夜、ラモーンズがデビュー間もない70年代。ローリング・ストーンズ、フランクザッパ、ルー・リード、ドクター・ジョンをはじめ多くのアーティストのパフォーマンスを見聞し、最下層超危険地帯の真っ只中、ブラックゴスペルのスインギングバトルに潜り込み、サルサからローライダーカルチャーを通過、バイロン・リーやマイティー・スパロウなど怪しげなカリビアンビッグ・バンドに接し、わずか500人キャパのロキシーシアターの最前列でボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズのライブに戦慄。

そして、NYCのスラム、CBGBではパティ・スミスやリチャード・ヘルなど多彩なパンクロッカーたちとの刺激的な出会い。1971年、この世の地獄、共産圏でのヒッチハイクをふりだしに世界一周の旅がきっかけだった。さらにアメリカ大陸を横断しながらの数々の出会いがs-kenの内なる自我を解放し、個性が形成されていく。没個性の時代、個性を引き出す稀代の天才プロデューサーの美学に迫る。


お上に楯突く歌舞伎、浮世絵、春画、狂歌。江戸のストリートカルチャー、それが’粋’と’HIP’ 

母方は代々品川界隈で江戸時代には遊船宿やっていたという「サラリーマンは、やめといたら?」みたいな家系なのね。親父は、城南地区でお神輿の太鼓を教えるぐらいの人でお祭りになると帰ってこない。踊り出したら止まらない、祭りとギャンブルにどこまでものめり込んでゆく狂気とともに生きたヒトだった。阿波踊りでも、踊りが止まらないような人がいるよね。同じようなものを俺は自分の血の中に感じる。親父については亡くなった後になって、もしかするとあの渋沢栄一の放蕩息子、渋沢篤二の隠し子じゃないかという、とんでもない話が持ち上がる。ただなるほど血筋かもと納得しまう道楽者の極地というべき渋沢篤二のことが分かってくる。

それとお祖母さんの遺言が“貧乏しても食い物にケチったりするな”だったり、口癖が「あのヒトは粋筋だったね」なんていつも言っていた。当時はまったく理解できてなかったけど、NYで知った“HIP”って美意識と非常に近いニュアンスを覚えたんだ。「あいつHIPだよね」とか「粋だよね」ってのは、“宵越しの銭は持たねぇ”っていう人間の行動様式にも絡んでくる心意気で同期しているように感じた。

HIPに関して書かれた本を読むとね、代表的なHIPなヒトが二人いて、それはジャック・ケルアックマイルス・デイビスだという。この本にはラモーンズパティ・スミスも出てくるけど、ヒッピーは出てこないし政治家も出てこない。こんな風に踊りだしたら止まらない狂気とは裏腹に、何か疑問が出てきたり不思議に思っていたりすることを体感すると、鋭利に明晰さをとことん求める探偵心が湧いてくるんだ。気が付くと30代に入って何千冊もの本に囲まれて生活するようになっていた。それは知識や教養ための読書ではなく、先行する自分の考え方に過去の事例があるのかを調べていく、しつこい探偵が犯人を探すようなアクションなんだ。

SEXYでCOOLでPUNK。それが「粋」

例えば“粋”という美意識をとことん調べていくと18世紀末の江戸は深川にぶち当たる。やはりリバーサイドだね。“粋は深川、いなせは神田、人の悪いは飯田町”って文献があるように、粋が生まれてきた当時の深川は、全国から漂白者、遊女など多様な風来坊、いわゆるアウトサイダー、異人たちが吹き溜まっていた場所だった。映画『ゴッドファーザー』の出てくるマンハッタンのロウアー・イースト・サイドみたいな様相を示していたらしいんだ。

それと九鬼周造の『粋の構造』には粋の三つの要素が書かれていて、一つ目は“媚態(びたい)”、俺はSEXYと訳した。それから“諦め(あきらめ)”。これは遊女の世界から出てきた感覚で、籠の鳥という絶望の状態を突き抜けた仏教の悟りともいえる境地、俺はCOOLと訳した。最後は“意気地(いきじ)”。歌舞伎『助六由縁江戸桜』で描かれる、花魁が金持ちのジジイを袖にして恋仲の侠客、助六に肩入れするという心意気、俺はPUNKって訳したんだ。お上に楯突く歌舞伎、浮世絵、春画、狂歌など粋な美学の上に浮上してきた江戸のストリートカルチャーは、NYで生まれたビーバップ、ビート文学、パンクにヒップホップと同期し構造も同じように思えてきたんだ。

影響はされるけど、アイドル的存在にはなり得ない

1975年ロスで見たボブ・マーリーの『ナッティ・ドレッド』ツアーのライヴは戦慄がはしるほどの衝撃だったし、ライブの後に彼に会ってガンジャを吹きかけられたことも未だしっかりと目に焼き付いている。でも四年後の1979年、東京で見た彼は、スーパースターになり、ジャマイカでは命を狙われたり政治の世界までに引っ張り出されていて、もうミュージシャンというよりも神様みたいになっていた。

日本でもボブ・マーリーを崇拝しちゃってヘアースタイルもドレッドにしちゃうのも出てきた。でも俺はスタイルを真似するんじゃなくて、ボブ・マーリーが信じるラスタファリ運動、彼がその指差すところのバック・トゥー・ルーツに目を向けた。“自分のルーツを見直せ”と捉えた。だから自分のルーツ、明治維新前の江戸のストリートカルチャーに目を向けていった。そのきっかけがボブ・マーリーだったわけで、強力な影響受けたけれどアイドル的な存在として思ったことはないんだ。

自身の作品も他のアーティストの作品も、目指すは音楽としての完成度はもちろん、他にないモノ、やはりオリジナリティーの追求ということになる。他のアーティストのことでいえば、最初はイベントプロデューサーとして、90年代からは音楽プロデューサーとして関わりあってきたけれど、やはり独自性を一番重視してきた。デビュー前のアーティストでいえばプロデュースワークやアドバイスでオリジナルな音源に辿り着けるがどうか、直感で選んできた。スーパー・バター・ドッグを代々木公園で見たときも、彼らはデタラメな英語の慣用句を使って演っていた。でもパッと聴いた時に、これを日本語でやったらユニークなモノになると確信があったし、クラムボンの場合も、客なんか三、四人しか入ってないステージだったけれどボーカリストのオリジナリティーと、彼女のゆるぎのない精神性を感じとったんだよ。

革新的なものが生まれる理由と生まれない理由

日系アメリカ人で、マイルス・デイビスやパグリック・エナミーとも絡んでグラミー賞を受賞しているレコーディングエンジニア&ミュージシャンのカーク・ヤノとは90年代から意気投合してね、日本で一緒に仕事をすることも多いんだけど、彼が言うには「日本のミュージシャンやエンジニアはみんな銀行員みたいだ」って言うんだ。日本人のシンガーがアメリカでボイストレーニングを受ける場合も、銀行員とは言わないまでも体に力が入りすぎていて硬いといわれる。それじゃあ喉に栓をしてしまっている様で、ブラックゴスペルシンガーみたいなダイナミックな声が出るわけがないとね。

ニューヨークやキングストンでミュージシャンと音楽の仕事をしていると、そのことを強く感じる。日本人の普通人からみると、ニューヨークの有名なラッパーもキングストンのレジェンドも、喋りかたや体の動きも、なんて態度が悪いヤツと思うかもしれないけど、長い人類の歴史から俯瞰すると僕らの方が変わっていて、ホモサピエンスはもともと日常的に踊ったり歌ったり力が抜けていてリラックスしていていた。ジャズに始まりブルース、ロックンロール、ロック、ファンク、などアフロ・アメリカン発のポップカルチャーの急激なグローバル化が起こった20世紀は、そのワイルドなDNAが復活してきた兆しだと思っている。

70年代のキングストンやニューヨークで起こったレゲエ、ダブ、パンク、ヒップホップなどは、有り合わせのモノを使って革新的なものを生み出すという、レヴィ=ストロースがいうところの“野生の思考”(ブリコラージュ)の復活に思えてくる。それに比べると日本は明治維新以降、古い西欧の硬いモラリズムや悩み多き自我中心にする哲学から、またまだ抜け出せないで体も硬いし発想も硬い。今や北斎や国芳への最高の評価もすでに“野生の思考”も、遠い過去に通過した現代思想をリードする欧米からやってくる。21世紀に革新的なモノを生みだすには、今こそ、もともとホモサピエンスが持っていた野生のDNAを体内から呼び戻さなければならないと予見している。
(了)

※KIRK YANO
カーク・ヤノは、グラミー賞を受賞したレコーディングエンジニアであり、カパブリック・エネミー、マライア・キャリー、マイルス・デイビス、フィービー・スノーまで多くの偉大なアーティストと仕事をこなしている。

なんとなくのフンイキに流されず、自分の心を揺さぶるモノを探求する。怪物s-kenが生まれた必然性に迫る。(1/2)☞ 戻る


71年、数万人の応募者から選ばれ作曲者としてボーランドの音楽祭に参加、世界を放浪後、音楽雑誌の編集スタッフとしても働き75年ヤマハ音楽振興会の海外特派員として渡米。ニューヨークに滞在中、CBGBなどのニューヨークパンクロックシーンに刺激を受けて、2年半後帰国後、伝説のパンクムーメント「TOKYO ROCKERS」を牽引。

アーティストとしてはデビュー·アルバム「魔都」(81年)、セカンドアルバム「ギャングバスターズ」 (83年)を経て、パンク、ファンク、ブガルー、レゲエなどをハイブリッドさせたs-ken & hot bombomsを結成、80年代のクラブシーンを代表するエポックなイベント“Tokyo Soy Source”に参加しつつ4枚のアルバムを発表。
同時期、「異人都市 TOKYO」、 「PINHEAD」 などの作家・編集者として、「カメレオンナイト」、「ニポニーズナイト」などのイベントプロデューサーとしても活動、東京のクラブシーンの揺籃期を活性化してきた。91年以降は次第にレコード&CDの音楽プロデューサーに専念、「JAZZ HIP JAP(UK クラブチャートにイン )」、「東京ラテン宣言」、クラムボン、スーパーバータードックから現在いたるまで、プロデュース作品は109タイトルに及ぶ。

Profile
Name: s-ken
DOB: 1947/1/17
POB: 大森、東京
Occupation: ミュージシャン、プロデューサー、ライター。
https://www.s-ken.asia


<ライブ情報>
s-ken新ユニット“s-ken & far east sessions”初ライヴ!
日時: 2023年5月14日(日)
OPEN 16:30/START 17:30
場所: 東上野 YUKUIDO工房
料金: 前売¥5000/当日¥5500(+1drink別途)
LivePocketから販売開始は3月21日(火) 18:00からhttps://t.livepocket.jp/
お問い合わせ:YUKUIDO Co.,ltd. / contact@yukuido.com
出演:s-ken & far east sessions
s-ken(Vo)、佐野篤(Ba、Perc、Celloなど)、ヤヒロトモヒロ(Perc)、ゲスト:森雅樹(Gt) from EGO-WRAPPIN’、原田芳宏(Steelpan)、中山うり(Acc、Tp、Vo、Cho)

<リリース情報>
s-ken & hot bomboms
アルバム『P.O.BOX 496』
32年ぶり、オリジナル・メンバーによるs-ken & hot bomboms のニューアルバム。2022年5月11リリース。東京の現在、過去、未来、膨大な情報の嵐から選びぬかれたメッセージが脳の宇宙の私書箱に届く、名付けて“P.O. BOX 496”コロナ禍にs-kenは奮発、奮起、狂喜、狂乱し全曲作詞作曲、選びぬかれた物語が躍る。

発売日:2022年5月11日(水)
価格:2530円(税込)
=収録曲=
1、夜空にキスして天国を探せ
2、P.O. BOX 496
3、風の吹くままリバーサイド
4、メロンとリンゴにバナナ
5、野良犬が消えちまった
6、一匹狼カムバックホーム
7、Low & High
8、マジックマジック


s-ken*moc WEFT KNITTING BOATER ’CHINGONA’

町田康を始め、森雅樹 (EGO-WRAPPIN’ )、高橋一 ( 思い出野郎 A チーム ) も絶賛する s-ken のニューアルバ ム『P.O.BOX 496』には、円熟と革新、アフリカから受け継がれてきた本能的なリズムと、日本人が遺伝子 レベルで持っている “粋” なパンク・アティチュードが混在する。109 タイトルに及ぶプロデュース作品に もすべてオリジナリティを求め挑んできた s-ken だが、ファッションについては、あまり語られてこなかっ た。

文芸、美術、音楽、演劇、映画…、全ての HIP な部分を抽出し昇華させる s-ken のスタイルには、80 年代 パンク&ニューウエイヴの時代から多くのクリエイターに影響を与えてきた。毎回、個性の大道を行く様々 な業界、業種の偉人に密着し、各々の哲学を紐解くインタビュー媒体〈moc(モック)〉では、音楽だけで なく彼のオリジナルなファッションにも注目しトレードマークである “帽子” のコラボ商品が実現すること になった。

■商品について
上質なメルトンを使用し成形した平らな円形状クラウンに、折り返しのニットブリムがつくボーター。スカ、パンク、モッズたちが愛したポークパイ・ハットの様な雰囲気も持ちながら、19世紀初頭の英国海軍が水兵に支給したBOATER(=ボートを漕ぐ人)の要素も併せ持つ唯一の世界観を表現した帽子だ。アイテム名となっている CHINGONA(チンゴナ)とは、スペイン語で「イカれて、ヤバいやつのこと=イ ケてるやつ」。の意。多様なカルチャーを昇華させる s-ken のスタイルを象徴するアイテムとなった。

■ファブリックについて
KNIT MELTON KERSEY
ポリエステル80%、アクリル10%、レーヨン10%
混紡糸を使いニットでありながら光沢があり軽やかな伸縮性を持ち、着用時の快適性を追求しました。織物が経緯(たてよこ)の直線の糸でつくられているのに対し、メリヤス(weft kniting)は、糸の屈曲による編目(ループ)の集合によって布状をなしています。江戸初期にヨーロッパから伝来、「莫大小」と書いてメリヤスと読み、大小なし、即ちピッタリフィットするを意味しています。

■サイズについて
– One Size FITS ALL (58cm-60cm)
※帽子内側のゴムベルトを使いサイズ調整が可能です。

■商品詳細
ITEM:s-ken*moc WEFT KNITTING BOATER”CHINGONA”
SIZE:one size fits for all
QUALITY:KNIT MELTON KERSEY(POLYESTER80% / ACRYLIC10% / RAYON10%)
COLOR:BROWN
DELIVERY:Late December, 2022
PRICE:¥7,000 +tax

商品に関する問い合わせ:
shop@mocmmxw.com

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