なんとなくのフンイキに流されず、自分の心を揺さぶるモノを探求する。怪物s-kenが生まれた必然性に迫る。(1/2)

日本で初めて燃え上がったパンク・ムーブメント「TOKYO ROCKERS」の火付け役にしてミュージシャン&ソングライター。「Tokyo Soy Source」、「カメレオンナイト」をはじめ日本のクラブ黎明期を牽引したイベントのオーガナイザーでもある。90年代以降はSUPER BUTTER DOG、クラムボン、DJ KRUSH、ボニー・ピンク、PE’Z、中山うりなどプロデュース作品も現在まで109タイトルを数える。独自性やリーダシップを発揮しムーブメントを起こすタイプではなかったひとりの人間がパンクロッカーになり、s-kenとして想像を超える自分に変貌していく発端を紐解く。

情報に流されずに自分の心を揺さぶるものを探求する

初めからすごく敏感な知性とか、独自性を持った人間もいると思うよ。だけど俺の場合は違う。作曲した曲が1971年「ポーランド、ソポト国際音楽祭」の参加曲に奇跡的に選ばれて、音楽祭に参加した後、世界を一周できる一年オープンチケットがもらえた。それで共産圏から世界のあちこちを放浪して、それまでの日本の常識がひっくり返る様な体験をすることで、行動様式が大きく変わっちゃった。それまでは国内の自分の身の回りで起きた狭い範囲の中から良い、悪い、をチョイスしていた。それが帰国後、古今東西、国境や時代を超越するような選択肢で行動するようになった。そこから情報に流されずに自分の心を揺さぶるものを探求するというs-kenという物語がスタートした。24才の時だった。

もともとオーガナイザーだとか、リーダーシップをとってムーブメントを起こすっていうタイプの人間ではなかった。だけど1975年ヤマハの海外特派員としてNYに行った時、CBGBやマックス・カンザス・シティなんかに三日とあけず通っていると、そこで数少ない人間が発火点となって、音楽シーンがガラッと地殻変動してしまうようなムーブメントを見てしまった。それが後に世界に広まっていくパンク&ニューウエイヴの発火点だった。だから「お前は日本に帰ってそれをやんなきゃいけないぞ」、個人的なサクセス・ストーリーだけを追うんじゃなくて、ムーブメントの発火点を知ってしまった人間としてシーンに火をつける様な、東京で独自なものを生み出していかないといけないぞっていう天命なような衝動にかられて動きはじめた。

※マックス・カンザス・シティ
1965年にミッキー・ラスキンがオープンした二階建てのステーキハウス。一階のバックルームには、ジョン・レノン、オノ・ヨーコをはじめ、アンディ・ウォーホール、ジャニス・ジョップリン、ポール・モリセイ、ティム・バックリィ、ケーリー・グラント、そしてウィリアム・S・バロウズをはじめ多くのアーティスト、ミュージシャン、映画関係者、フォトグラファーに作家までが同じテーブルを囲んだ。2階はナイトクラブになっておりライブが見れた。

何かに夢中になることから全てが始まる

若い人たちが個性やオリジナリティを発揮するという意味では、ローリング・ストーンズが一番良い例だよ。10代だった彼らがオリジナリティを獲得していった流れには、自分たちの身の回りで今、流行っているものでだけでなく、夢中になれるモノを時代をさかのぼって探索しいったことが挙げられる。ロンドンにいた彼らは、シカゴのチェス・レコードから通信販売でマーディ・ウォーターズやブルースのレコードを買ってカバーしたところから始まっている。カバーはある種のコピーだけどコピーして同じ様にやろうとしたら、違うものが出来ちゃった、オリジナルと違うグルーヴが。それが後に“ロック”と呼ばれることになるんだ。

思春期に俺がまずに夢中になったものがレース鳩だった。凄く夢中になると、やっぱり夢中になっている人と出会う、その人がたまたま音楽通でもあるリッチな青年だった。それでレース鳩とビートルズやストーンズやアニマルズのレコードを交換してもらったりした。そうじゃないとアルバムなんて高くてなかなか買えなかった。まず寝ても覚めても何かに夢中になることが見つかると、ストーンズじゃないけれど“転がる石”のように、次々にあれもこれもと好奇心が湧いてくるし刺激的な人間との出会いも起こる。その転がり方がヒトそれぞれ違うわけだから、それがいつしかオリジナリティーを獲得することになると思うんだ。一度、夢中なこと出てくると、好奇心は成り行きで果てしなく増幅していく。

廃れるモノと廃れないモノ

初期のアメリカのロックンロールのリズムはほとんどが弾んでいて、1958年のベンチャーズの『Walk Don’t Run』なんかも未だシャッフルビートだった。だから1962年、UKからビートルズが出てきた時はちょっと驚いた。リンゴ・スターのビートは衝撃的な8ビートでグッときたんだ。でも「当時のビートルズは凄かったねー!」とかよく聞くけれど、それは嘘、日本では最初、ほとんど知られていなかった。高校生の時、クラスで名前を知っている奴なんて二、三人しかいなかった。周りは、みんな230万枚超えセールスの舟木一夫の歌謡曲「高校三年生」だったからね。ボブ・ディランの「時代は変わる」なんて曲を知ってしまった人間としては、

“〽ああ 高校三年生 ぼくら 離れ離れに なろうとも クラス仲間は いつまでも”

なんて歌詞、正気じゃ歌えなかった。それが後に本当に時代が変わりボブ・ディランはノーベル賞、舟木一夫は今何処へって感じでしょ。日本は当時から、世間から逸脱することに恐怖心というか、同調圧力が強すぎた。舟木一夫が流行っている時に、ビートルズなんか聴いていると「なんだ、コイツは?」って目で見られる。21世紀になっても変わらないね。たとえばみんながAKBって可愛いって言っているときに、ニーチェなんか読んでいるヤツがいると「なんだ、コイツは?」ってことになる。イジメの構造も同じだよね。それと欧米からやってくるファッション、ニューカルチャーも昔から六大学のボンボンみたいな先導者が「今はグラムロックが流行ってるぜ!」みたいなことを言うと、メディアを通して次第に地方まで広がって追従していくものが出てくる。階級制度みたいでしょ。

同調圧力を切っていく、異人都市のアウトサイダー

売れている、売れていない、流行っている、流行っていないで判断するのではなく、自分の感性に従って美意識を鍛えて欲しいもの。上出優之利氏の写真にもそういうものを感じるんだけど、やっぱり同調圧力を振り切っていく、異人とも言える存在、アウトサイダーやエイリアン的な在住外国人、そういった人たちが創造性に強く関わり合っていると思う。現代日本の場合、独自の感性を持った勇気あるクリエイターがなかなか出てこない。メインストリームの構造の中に収まっちゃっている人が多い。例えば一見アウトサイダー風のヤンキーも実はマイルドヤンキーなんて言われ選挙でも、リーダーがこいつに入れろっていうとみんな同じ人に入れるって状況でしょ。ヤンキーまで同調圧力の世界の住人ということだ。

俺が今まで体験した例で言えば、70年代後半のニューヨークのスラム、バワリー界隈で生まれていたパンクロック、サウスブロンクスで起こったヒップホップ、SOHOにあったゲイ専門ディスコ“パラダイスガレージ”で起こった“ガラージ”というダンスミュージックもそう。ゲイっていうのはやはりアウトサイダー的存在、オーナーもDJも同性愛という共通項で人種的にはアフロ・アメリカン、ラティーノの中心に混じり合っていた。

ヒップホップでいえば最初のオリジネイターだったオールドスクールDJたち、クール・ハークはジャマイカ移民だし、グランドマスター・フラッシュはカリブのバルバドス出身、グラフィティアートから世にでたバスキアもプエルトリコ系移民の母親とハイチ系移民の父親の間に生まれている。特にあの当時はジャマイカを中心としたカリビアンの底力が強くて、そういった異人たちがスラム的、怪物領域で独自の考えをぶつけ合う中で革新的なカルチャーを生み出していった。“異人都市”という言葉はそんな体験から生まれた俺の造語なんだ。“異人都市”という都市空間から刺激的なニューカルチャーが生まれてくるという想いから思いついたんだ。

21世紀版の異人都市・東京の歌『風の吹くままリバーサイド』

s-ken & hot bombomsのニューアルバム、『P.O. BOX 496』に収録されている『風の吹くままリバーサイド』は、まず浅草から隅田川をあがっていったところにある、向島、山谷、京島から北千住に向かうリバーサイドを歌っているんだ。写真家、上出優之利氏、フリーエディターの片山喜康氏とコロナ前、この界隈を都市探検よろしく徘徊していると非常に活気がみなぎっていることに気づいた。調べてみるとこの隅田川、荒川を中心とするリバーサイドのまたがる、墨田区、台東区、足立区の三区を合計すると日本で一番在住外国人が多いことがわかった。かつての最大のスラム、山谷は世界中からのバックパーカー街に変貌しつつあり、北千住に戦後焼け跡にも相通じるような猥雑な活気を感じ、ここから何かが出てきそうな予感がしてきた。

そんな時、EGO-WRAPPIN’森雅樹君はいち早くこの界隈をホームベースしていることを知って再会した。彼はこの界隈、商店街も巻き込んでイベントプロデュースも開始していて、この曲が生まれた背景に彼も絡んでいた。まあ、この曲にかぎらず、ニューアルバム 『P.O. BOX 496』、全体が上出優之利氏が撮ってくれた何千枚もの写真とシンクロしていて21世紀版の“異人都市TOKYO“とも言えると仕上がりになった。

一曲目の「夜空にキスして天国を探せ」は歌舞伎町ラブホテル街、秋葉原電気街の異人たちが登場し、ラスト・ソング、「マジックマジック」では知らず知らずのうちに都市を取り巻きつつあるアウトサイダー中にアウトサイダーの動物たち、ハイエナやアライグマ、ハヤブサやタカなどが現れて、

“〽人間どもが自滅してもアラララ マジックマジック 生き延びてやるぜって吠えている”

と吠えまくる。こんな風に長く生きていると、なぜかノイズやダブを多用したアバンギャルド性が加速してきている。そういえば北斎も国芳もピカソもバスキアもそうだよな。大衆的文化が少し練られたてきて成熟した時期になってくると、決まってアバンギャルド性が芽吹いてくる。ルネサンス後期の美術用語でマニエリスムというヒトもいるけれど“ポップ・アバンギャルド“って言葉を自分なりに使っているんだ。

個性を引き出す希代の天才s-kenのルーツ。お上に楯突く歌舞伎、浮世絵、春画、狂歌。江戸ストリートカルチャーに見る日本人の美学(2/2)☞ 続く


71年、数万人の応募者から選ばれ作曲者としてボーランドの音楽祭に参加、世界を放浪後、音楽雑誌の編集スタッフとしても働き75年ヤマハ音楽振興会の海外特派員として渡米。ニューヨークに滞在中、CBGBなどのニューヨークパンクロックシーンに刺激を受けて、2年半後帰国後、伝説のパンクムーメント「TOKYO ROCKERS」を牽引。

アーティストとしてはデビュー·アルバム「魔都」(81年)、セカンドアルバム「ギャングバスターズ」 (83年)を経て、パンク、ファンク、ブガルー、レゲエなどをハイブリッドさせたs-ken & hot bombomsを結成、80年代のクラブシーンを代表するエポックなイベント“Tokyo Soy Source”に参加しつつ4枚のアルバムを発表。
同時期、「異人都市 TOKYO」、 「PINHEAD」 などの作家・編集者として、「カメレオンナイト」、「ニポニーズナイト」などのイベントプロデューサーとしても活動、東京のクラブシーンの揺籃期を活性化してきた。91年以降は次第にレコード&CDの音楽プロデューサーに専念、「JAZZ HIP JAP(UK クラブチャートにイン )」、「東京ラテン宣言」、クラムボン、スーパーバータードックから現在いたるまで、プロデュース作品は109タイトルに及ぶ。

Profile
Name: s-ken
DOB: 1947/1/17
POB: 大森、東京
Occupation: ミュージシャン、プロデューサー、ライター
https://www.s-ken.asia


<ライブ情報>
s-ken新ユニット“s-ken & far east sessions”初ライヴ!
日時: 2023年5月14日(日)
OPEN 16:30/START 17:30
場所: 東上野 YUKUIDO工房
料金: 前売¥5000/当日¥5500(+1drink別途)
LivePocketから販売開始は3月21日(火) 18:00からhttps://t.livepocket.jp/
お問い合わせ:YUKUIDO Co.,ltd. / contact@yukuido.com
出演:s-ken & far east sessions
s-ken(Vo)、佐野篤(Ba、Perc、Celloなど)、ヤヒロトモヒロ(Perc)、ゲスト:森雅樹(Gt) from EGO-WRAPPIN’、原田芳宏(Steelpan)、中山うり(Acc、Tp、Vo、Cho)

<リリース情報>
s-ken & hot bomboms
アルバム『P.O.BOX 496』
32年ぶり、オリジナル・メンバーによるs-ken & hot bomboms のニューアルバム。2022年5月11リリース。東京の現在、過去、未来、膨大な情報の嵐から選びぬかれたメッセージが脳の宇宙の私書箱に届く、名付けて“P.O. BOX 496”コロナ禍にs-kenは奮発、奮起、狂喜、狂乱し全曲作詞作曲、選びぬかれた物語が躍る。

発売日:2022年5月11日(水)
価格:2530円(税込)
=収録曲=
1、夜空にキスして天国を探せ
2、P.O. BOX 496
3、風の吹くままリバーサイド
4、メロンとリンゴにバナナ
5、野良犬が消えちまった
6、一匹狼カムバックホーム
7、Low & High
8、マジックマジック


s-ken*moc WEFT KNITTING BOATER ’CHINGONA’

町田康を始め、森雅樹 (EGO-WRAPPIN’ )、高橋一 ( 思い出野郎 A チーム ) も絶賛する s-ken のニューアルバ ム『P.O.BOX 496』には、円熟と革新、アフリカから受け継がれてきた本能的なリズムと、日本人が遺伝子 レベルで持っている “粋” なパンク・アティチュードが混在する。109 タイトルに及ぶプロデュース作品に もすべてオリジナリティを求め挑んできた s-ken だが、ファッションについては、あまり語られてこなかっ た。

文芸、美術、音楽、演劇、映画…、全ての HIP な部分を抽出し昇華させる s-ken のスタイルには、80 年代 パンク&ニューウエイヴの時代から多くのクリエイターに影響を与えてきた。毎回、個性の大道を行く様々 な業界、業種の偉人に密着し、各々の哲学を紐解くインタビュー媒体〈moc(モック)〉では、音楽だけで なく彼のオリジナルなファッションにも注目しトレードマークである “帽子” のコラボ商品が実現すること になった。

■商品について
上質なメルトンを使用し成形した平らな円形状クラウンに、折り返しのニットブリムがつくボーター。スカ、パンク、モッズたちが愛したポークパイ・ハットの様な雰囲気も持ちながら、19世紀初頭の英国海軍が水兵に支給したBOATER(=ボートを漕ぐ人)の要素も併せ持つ唯一の世界観を表現した帽子だ。アイテム名となっている CHINGONA(チンゴナ)とは、スペイン語で「イカれて、ヤバいやつのこと=イ ケてるやつ」。の意。多様なカルチャーを昇華させる s-ken のスタイルを象徴するアイテムとなった。

■ファブリックについて
KNIT MELTON KERSEY
ポリエステル80%、アクリル10%、レーヨン10%
混紡糸を使いニットでありながら光沢があり軽やかな伸縮性を持ち、着用時の快適性を追求しました。織物が経緯(たてよこ)の直線の糸でつくられているのに対し、メリヤス(weft kniting)は、糸の屈曲による編目(ループ)の集合によって布状をなしています。江戸初期にヨーロッパから伝来、「莫大小」と書いてメリヤスと読み、大小なし、即ちピッタリフィットするを意味しています。

■サイズについて
– One Size FITS ALL (58cm-60cm)
※帽子内側のゴムベルトを使いサイズ調整が可能です。

■商品詳細
ITEM:s-ken*moc WEFT KNITTING BOATER”CHINGONA”
SIZE:one size fits for all
QUALITY:KNIT MELTON KERSEY(POLYESTER80% / ACRYLIC10% / RAYON10%)
COLOR:BROWN
DELIVERY:Late December, 2022
PRICE:¥7,000 +tax

商品に関する問い合わせ:
shop@mocmmxw.com

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