変わるモノと、変わらないモノ。そして変わってはいけないモノ。正しく古いものは、永遠に新しい。(2/4)

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INTERVIEWS:
阿部 勤 / 建築家


東洋と西洋。外と内。公と私。明と暗。加と減。混乱と整頓。建築家・阿部勤のてがける建築は、相反する要素が良き関係性を築き上げている。建築にとって大切なことは技術、機能と言った文明に加え意匠(ART)という文化である。

感性があって建築にも興味のある人が「私は、数学が苦手だから建築はダメだ」と諦めてしまう。日本は建築家を育てる環境が理系に偏っていたのです。

日本では建築が文化としてまだ定着していません。海外ですと社交の場で音楽や絵画と同列に建築が文化として話題にあがったりしますから一般的な家庭でも、絵画や音楽と同様に建築の雑誌が普通に置かれています。日本は明治時代に建築が文化としてではなく文明として技術を重視した形で入ってきました。ですから日本の建築科のある学校は、芸大を除いては理工科でした。

アートや文化といったジャンルに入っていないですから感性があって建築に興味のある人が「私は、数学が苦手だから建築はダメだ」と諦めてしまう。日本は建築家を育てる環境が理系に偏っていたのです。建築にとって大切なのは技術、機能と言った文明に加え意匠(ART)という文化です。新しい物事を創造するには感性を育て、磨かなければなりません。

感性を育てる上で大切なことは、センス・オブ・ワンダー、オヤッ!カワイイ!ヤバイ!といった感じ、それを意識して見、聞くことです。意識の「識」の方、つまり脳で見るわけです。目で見た映像はすぐに消えてしまいますが、脳で見た映像は感性として脳の中にファイルされてずっと残ります。これらはあなたの琴線に触れ、あなたが選んだイメージですからこれがあなたの感性なのです。

ですからできるだけたくさん自然の中、街を歩き、博物館、美術館を訪れ、良いモノ・コトにたくさん触れファイルを充実することです。新しい物事を創造する時、先ず目的を定め、次に先ほどのファイルの中から目的に合ったモノ・コトを探し出します。当然ピッタリ合うことなどありません。組み合わせたり、展開させたり、部分的に変化させたり、その変化と選択を繰り返すことにより目的に限りなく近づくのです。ゴルフや麻雀に似ています。

*「シェーカー教徒の椅子」
19世紀アメリカを中心に活動した清教徒・シェーカーが作った家具。所有欲を嫌い、規律を重んじ、労働を尊び、高い精神性を保った。装飾を排除した中から生まれた機能美が素晴らしい。写真は背に寄りかかって動かしやすいよう、脚底にボールがついている。(宇納家具工房)

*「ミラチェア」
木匠ジョージナカシマのお嬢さんの名前を冠にした3本足椅子。デザインもさることながら、職人の手の跡が感じられる阿部さんお気に入りの椅子。(桜製作所)

*「ハンドレッドチェア」ボリビアの囚人が作った物をマルニが企画

アメリカのある大学院の研究室で、この世に存在しない全く新しい生物を創造するというテーマで各人持ち寄りました。皆でそれを分析した結果、全く新しい生物を考え出した人は一人もおらず、既存生物の部分だったり、その組み合わせや、発展形であったらしいです。建築の創造に関しても同様です。建築の場合、純粋アートと異なり目的や機能があるわけですから、よほどの天才でないかぎり全く新しい物事の創造はできないと考えても良いのではないでしょうか。全くのコピーでなく、自分の感性で選んだファイルから造り出したモノ・コトは、その人独自の創造物といって良いと思います。

(私の家は)中心と二重の囲いというシンボリックな変ることのない確かな空間になっていますが、そのほかは決めておらずルーズになっていて、多様に変化する生活の求めに応じて変化する空間になっています。

私が「私の家」の設計を始めた頃、「中心のある家」のコンセプトはありませんでした。自分の家を設計するということで肩に力が入って、考え得る案はほとんどテーブルの上に乗せました。確認申請を出してからも、ちょっと違うなと申請の取り下げを二回出し直しています。最初に確認申請を出した案は、当時の流行でもあった箱型の四角っぽい家だったのですが、その後色々考えて「住まうことの本質は何だろうかと」いうところから解き起こしました。

大きく人間の住まう場の作り方には、囲うという方法と、覆うという二つの方法があります。外敵が少なく、多雨多湿な日本や東南アジアの方式で木や竹を組む方式で屋根を覆います。ヨーロッパや中国など外敵が多い厳しい環境が故にレンガや石を積んで囲います。昔の日本では社会という囲いがありましたから、住まいは囲わなくても良かったのです。しかし地域社会が崩壊して、各々が独立してある程度防御しなければという社会状況になって、囲うという方法と覆うという方法の両方が必要になってきました。

私の家はコンクリートの壁で囲い、それを屋根で覆うという両方の方法を採ることとしました。一階はコンクリ―ト壁構造の二重の囲い、二階は内側の囲いはコンクリートで、外側の囲いの腰から上は木造軸組構造で、それを屋根で覆うという形です。その結果、閉じる開く、暗い明るい、硬い柔らかいという相反する両法の空間ができました。

又、二重の囲いにすることにより、外と内の間に外のような内、内のような外といった空間ができました。床は木造で状況の変化に対応する脱着可能な木造とし、吹き抜けを作ったり、高さを変えたりでき、床高、天井高も変化のある空間となりました。中心と二重の囲いというシンボリックな変ることのない確かな空間になっていますが、そのほかは決めておらずルーズになっていて、多様に変化する生活の求めに応じて変化する空間になっています。

一番の変化はキッチンです。25年前妻が他界しました。妻は料理が上手くどちらかと言えば「男子厨房に入るべからず」といった方でしたので、妻の要求で独立したキッチンにしましたが状況は大きく変わり、一人で作り食べるという男の一人暮らしのためのキッチンに作り直しました。

壁沿いにH=850のI型のワークトップを作り、そこにメインシンクを設け、そこからT型に半島上に突き出した、食卓の高さH=720のワークトップを作りサブシンクとヒーターを設けました。アイランドと異なり本土から出っ張った半島状のため「ペニンシュラキッチン」と名付けました。高低二つのワークトップのために作業性が良く、高齢者対応で椅子に座って作業もできるし、食べながら作る一人暮らしの生活に対応しアイランドキッチンのように皆で囲んで作り、食事を楽しむこともできる。ダイニングキッチンより進んだリヴィングキッチンです。キッチンの構造は、パネルや箱でなく、30×30のスチールアングルンフレームで構成され、そこに機器をインフィルするかたちで多様なニーズに対応し変化することのできるフレームキッチンとしました。

素性の知れない化学合成物質のほとんどは朽ちることなく環境を汚染し、またいつ有害物質に豹変するかもしれません。その点、人類が何万年と付き合って来た素材はうらぎりません。

最近の住まいの大部分は新建材を使って建てられています。壁クロスの多くが化学合成物質ですし、一見木に見えるものも大部分が張り物です。昔は薄くスライスした木を貼っていましたが、技術が発達しどんどん薄くなり、今では大半が印刷物です。技術も発達し、見た目では本物と区別が付きません。しかし素性の知れない化学合成物質の大部分は朽ちることなく環境を汚染し、またいつ有害物質に豹変するかもしれません。その点、人類が何万年と付き合って来た素材は裏切りません。

私の家は、木・土・石といった素材で建てられています。しかも中身まで本物で削ったり、磨いたりできる無垢材です。コンクリートは石・砂のセメントでできていますから、私は素性の知れた素材だと感じています。床にはレンガ、レンガタイルを使っています。昔のレンガは焼きムラができ味があります。最近は電気で焼くので焼きムラができません。木・土・石といった無垢の素材は、経年によって環境風景に馴染み、私との関係もどんどん良くなります。素材に加え空間を表現するのに大切なのは光です。光で表現された空間は劣化することなく永遠に変わりません。光は、時間、季節により変化します。空間の変化、重なりは視点の移動により無限のシーンを創り出します、空間カレードスコープです。同じく空間は二度と巡り会いません。50年近く住んでいますが日々未だに発見の喜びがあります。


☞住まいは買うモノではなく、一緒に創るモノ。建築家・阿部勤の美徳。(1/4)

☞変わるモノと、変わらないモノ。そして変わってはいけないモノ。正しく古いものは、永遠に新しい。(2/4)

☞モノがない時代の豊かな生活。建築家・阿部勤のルーツ。(3/4)

☞住まい手を取り巻く環境から、そのあるべき姿を探し出す。阿部勤の考える品格。(4/4)


1936年東京都生まれ。1960年早稲田大学理工学部建築学科卒業後、坂倉準三建築研究所入所。北野邸、佐賀県体育館、呉市民会館、ホテル三愛、神奈川県庁舎、タイ国文部省の要請により、農業高等学校、工業高等学校、及びカレッジ25校の設計管理に従事。戸尾任宏、室伏次郎と主宰した株式会社アーキヴィジョン建築研究所を経て、1984年に室伏次郎と共に株式会社アルテックを設立。私の家、蓼科レーネサイドスタンレーなど代表作は多数。個人事務所として最多6度の「建築25年賞」受賞。早稲田大学理工学部建築学科非常勤講師、東京芸術大学芸術学部非常勤講師、女子美術大学非常勤講師、日本大学芸術学部非常勤講師を歴任。

Profile
Name: 阿部勤
DOB: 1936/7/7
POB: 東京、日本
Occupation: 建築家
http://abeartec.com

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