April 12, 2019
メンバーはそれぞれ音楽の基礎があり一人一人違う特性をもっている。ベーシストとドラマーは街育ちのクルンの人です。その為ジャズやロックそしてレゲエ等の要素を自然と体感し吸収できる環境にいます。それに対してピン奏者のカンマオはモーラムやイサーンの曲を身近に感じながら育ってきました。タイ国内においても伝統的なメロディー・ラインと演奏法を用いる数少ないピン奏者なのです。彼のバックグラウンドがそうさせています。そもそも彼はピンを制作する家族に生まれ育ちました。彼の父もまたピン奏者でありピン楽器の教師でありピンの制作者なのです。幼少時代からピンに触れ物心ついた頃にはピンを弾いてピンと一緒に育ったのです。幼少期は夜な夜な父にピンを弾いて寝かし付けてもらったのです。彼は大人になってからもピンの伝統を引き継ぎピン奏者になりました。そしてピンの制作も続けたのです。彼の人生の全てにおいてピンが関係している様な人物なのです。
一族の伝統的なピンの制作方法があります。まずは木を一本植える事から始めます。10年もの月日をかけてその木が枯れ倒れてから要約その木を彫るところからピン制作が開始します。全て彼のクラフト作品さ。彼の子どもや家族の手を借りながら。演奏用のピックも水牛の角から手作業で制作します。角をヤスリで磨く作業は奥様が担います。アコースティック・ピンに関しては昔から自転車のブレーキを弦として使用します。故に弦が他の楽器よりも硬くて普通のピックを使うと折れてしまいます。ですからピックは頑丈な水牛の角だけが使えるのです。その他のエレキ・ピンに関しては、カンマオは電話のケーブルの線を使います。弦選びもすべて彼自身の好みで選ばれているそうだ。カンマオはピンとイン(in)してる一族に生まれ育ったのです。
彼はただピンが好きで演奏しているだけではない。もっとピンを宗教的に見ているのです。彼と話せば常にピンやピンの神様について語ってくれる。2000年前のタイ仏教の古い神話に登場するプラインというピンを演奏する神様の話だ。その昔人々が食料不足で苦しんでいる時に村へやって来て人々にピンを弾いて聴かせ癒してくれる話さ。
普段から自分が演奏するピンの弦状態を見て緩んでいないか張りすぎて突っ張っていないか確認します。それを軸に日々の自己反省をして生きる指針にするのです。例えば、真ん中の弦が緩んだり張り過ぎて切れたとします。これは「中心」つまり欲を司る意味の線ですから、最近の自分はバランスが悪くて少し欲が多かったのではないかと自己反省し改めたりするわけです。また何か乗り物に乗り遅れそうな時もプラインに祈ります。どうか乗り遅れの無い様に無事あの便に乗れます様にってこんな具合です。彼の人生は何をするにも全部プラインに関係するのさ。
*Phin(ピン):
タイのイサーン地域を原産とする洋梨型の弦楽器の一種。ネックにはフレットが有り、その上に2〜3本の金属弦が走っている。伝統楽器。
次はサワイについて。サワイは最年長で今年もう77歳になります。彼は昔からケン奏者だった訳ではなく別の職業で働いていました。ケン楽器を始めたのはおそらく30歳を過ぎてからだと聞いています。今70歳以上ですから約40年吹いている事になります。最初にケンを吹いていたのはモーラムのバック・バンドとして*Molam Soontharapirom Band(モーラム・スンタラーピロム・バンド)で吹いていたそうです。第二次世界大戦が終わった直後に誕生したバンコクに拠点を置くバンコク初めてのモーラムバンドなんです。
他にも色んなレーベルのアーティストのバックで演奏をしていたようだ。ラムプルーン系の伝統的な楽曲スタイルのSunthon Chairungrueang(スントーン・チャイルンルアン)などだ。暫くして私とパラダイス・バンコクで出会ったのです。彼は最年長だけど常にオープンで学び欲が半端ない人間だ。聴いた事がない曲を聴いて新しい情報を学ぼうとする。彼はこの世には膨大な種類の音楽が存在する事を知っているのです。彼は常に質問をしている。例えばバンドで曲をやろうとなったらずっと自分のパートを練習し楽曲に関してもこういうのはどうかとかアイディアを出してくれる。とにかく働き者で自分がする事に対して好きになれる人だ。元々、彼にとって音楽はパートタイムの様なもので定年までバンコクのオランダ大使館に勤務していた。定年退職後は音楽一筋でアーティストとして活動しているのです。
*Khene(ケン):
竹製の吹奏楽器。金属製のリードが音源で竹や葦などの筒によって共鳴させる笙(しょう)の仲間。管は2列に並んでおり、6列12本が標準。50センチメートルくらいの長さのものから、大きなものは2メートルほどもある。
*Molam Soontharapirom Band(モーラム・スンタラーピロム・バンド):
1956年結成のオリジナル・モーラム・バンド。
*Sunthon Chairungrueang(スントーン・チャイルンルアン):
1938年生。マハーサーラカーム県出身の男性歌手。踊れる新しいモーラムのスタイル「ラム・シン」の原型を作りスタイルを確立。
どのメンバーも自分の考えや演奏法がありますから、特に誰がバンドのリーダーなのかという立ち位置は無いです。各自が成長してバンドを支え合っているのです。メンバー全員で一緒に何かを作り上げていきます。ジャム・セッションして一体どんな事が起きるのか試すのです。全てを1人でこなす人間はいないさ。
全ての練習やリハーサルを録音して何度も聴き返していた。そしてメンバーが集まり音を試しながら練習を重ねたのです。また今回のライヴで演奏した音はどうだったか、どこがどう気に入らないのか、どの部分ではフィードバックが良かったかを話し合い常に成長し進化しているのです。こうしてパラダイス・バンコクの曲が出来上がる。音の主旋律は伝統的なモーラムのピンやケンの要素で構成していますが、私やクリスそしてパンプやその他にも色々な人間から出るリズムやグルーヴやビートと混ざり合い新しいサウンドが生まれる。
実験を重ね音楽を発展させてきた先人達と同じ精神が私達の根底にはあるのです。既存するその他大勢のモーラムバンドにはなりたく無かったし単なる’70年代の雰囲気に縛られている様な音楽にはしたく無かった。私達がやりたい事は古き良きラインを含みながら“今”を絡み合わせる。文化的な立ち位置を残しつつ現代にも通じる新しい文化なのです。
凍結された伝統的な文化は、現代社会いわゆる若者との世代間を繋ぐ糸口が無い様に思うのです。メロディーラインやリズムを上手に再構築できたらまったく新しい層にも訴求できるのではないかと考えるわけです。私達の音楽がファーストゲートとして普段モーラムを聴かない層にも広げられるはずだと。モーラムには人間の興味や中毒性を引き出す力があるのです。
我々のモーラムバンドがキッカケとなりその先でモーラムのカルチャーや歴史を探し出すかも知れない。他にどんなバンドがいるのだろう?どんなシーンがあるのだろう?それぞれの県や村によってサウンドやリズムはどう違うのか?音楽探求の入り口になれば嬉しく思います。
私達はアルバムを過去2枚発表しています。1枚目は「21st Century Molam」、2枚目は「Planet Lam」です。内容は楽器で演奏された音(インストゥルメンタル)で構成されている。特に意図したつもりは無いが決まったボーカルが存在しない為、自然と楽器と楽器が音を出し自由に試行錯誤を繰り返した結果生まれたた曲達なのです。もし歌手がいたら勿論その歌手がメインとなるだろしピン楽器の音も歌手の声と被らない様に演奏するでしょう。ある意味、歌手がいたら出来なかった事が可能になったのです。様々なショーでジャムセッションも繰り返しましたから。加えてカンマオがメインのメロディーラインを弾く事でより伝統的な音色を強調した演奏をする事が出来るのです。こういった理由から最初のプロジェクトはインストゥルメンタルにしました。「21st Century Molam」は、これが私達の角度から見た21世紀のモーラムだというのを伝えたアルバムです。ですから「モーラム」とはこうあるべきだと示すつもりは全く無い。モーラムとは一人一人の解釈や考え方が異なる存在なのです。私達の解釈が形としてアウトプットされたという事です。今こうして集まった6人の各々の解釈が混ざり合い出来上がったサウンドなのです。1人でもメンバーがいなかったり変わったりしたらそれはまた別の音になるでしょう。
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