白黒つけない、ごちゃ混ぜの世界へ。横尾忠則(2/2)
-
INTERVIEWS:
横尾忠則(よこお・ただのり)Tadanori Yokoo / 現代美術家
子供の頃に勝手に旅に出て捜索願を出されるような自由奔放さ、それを咎められ抑圧されていく中で、だんだんと人の目線や評判を気にしながら物事を判断し、だんだんと自分で考えたり、感情を素直に表現することができなくなる。
利得効率だけで判断する様なつまらない大人にはなりたくない。“ 子どものときのまま 感性を大切に生きられるか 横尾忠則から真の自由な生き方を学ぶ ”

無分別の世界
僕が禅に興味を持っていったのは、1967年にアメリカニューヨークへ行って知識人と交流する中で、ほとんどの知識人が禅に興味を持っていて、僕が日本人だと思うと、禅のことに詳しいと思って、禅のことをふっかけて来ます。ところが僕は、禅のことなんて全然知らない。
僕は彼らと交流するためには、よほど禅をマスターしなきゃ駄目だろうと思いました。帰国してから一年間参禅してみようと思った。あるいはこれもアメリカでの逆輸入ですね。だけど西洋人は、どちらかというと頭で解釈する様な、理屈の世界で禅を学ぼうとしています。それでは駄目です。理屈ではないのです。
我々の世界の大部分が言葉と観念です。観念で物事を分別して、白黒をはっきりさせていく。それが現在の知性でもあるわけです。ところが禅というものは、そういうことをむしろ否定していくわけです。分別をさせない。むしろ無分別でいいのではないかという教えだと思います。ですから芸術と非常に近い、無分別の世界です。

物を考えることから離れる。考えないことによって、物の本質に触れる、そして迫っていく。だから禅の世界では理屈が通用しません。まぁつべこべ言わないで黙って座りなさいという、この一言しかないですね。
黙って座っていく。 そうすると、次から次へと、いろんな欲望だとか、そういった観念が去来してくるわけです。その去来する観念を追っかけるのではなくて、それを次から次へと流していく。そして流しながら考えるということから離れていく。そこで経験する「わたくし」という存在ですよね。それが禅ではないか。非常に多様的で、多角的ですから、こんな簡単な言葉では言えないと思います。
僕は一年間ほど参禅経験をしたけれども、その頃は何がなんだか分からなかったけど、今もう老齢に近づいてきて、初めてあの禅の経験がね、日常生活の中で少しは活きているのかなという感じがしますね。
禅寺の禅堂というのは、座っている間だけが禅じゃなくて、日常の生活の中に入り込んで、はじめてそこに禅があるということです。最初はもう非常に抽象的な言葉に思いましたけど、今になってその通りだと思います。

無意識の世界
僕は絵を描くときアスリート的な気分で描いています。テーブルの上で手と頭を使って描くよりも、身体的に躯を動かしながら創作するタイプですから、どちらかというとアスリートに近いアーティストだと思います。芸術は観念でなく感覚で表現するものだからです。観念は嘘をつくけど、その点、肉体は正直だと思います。
そういう意味でスポーツ選手というのは、やっぱり僕とどこかに共通するものがあるなと思っています。つまりスポーツというのは一種の瞬間芸です。ピッチャーが向こうから投げたボールをその瞬間に、頭を空っぽに、思考をゼロにして、目の前の球をただただ打つということです。*長嶋さんがそうでしょう。それこそ禅ですね。
だから絵を描くときも言葉と観念はできるだけ排除して、空っぽの状態で絵を描くというスタイルが、僕にとっては一番理想的だし、それは禅の修練でもあります。その無我、無私の状態で絵を描くという意味において、僕は非常にアスリート的だと思います。
*長嶋茂雄
日本を代表するプロ野球選手・監督であり、野球界の「ミスター」と呼ばれる国民的ヒーローです。類まれな勝負強さと華やかなプレーで人気を集め、ON砲(王貞治とのコンビ)として巨人のV9(1965~1973の9年連続日本一)を牽引した。

ごちゃごちゃ混ぜの世界
僕は、頭上に飛来するB29が赤く染めた夜の空、その後にみる街が廃墟と化した記憶が体内にギリギリ刻み込まれているという世代です。小学三年生のときに終戦を迎えましたから、大東亜戦争として国が押し付けてきた生き方と言えば良いのか。戦争は間違っているとか、そんな気持ちを持つ余裕さえなかった世代です。
国家自体によって完璧に洗脳されているわけです。少しばかり早く生まれてくれば、早い時期に戦争へ行って、特攻隊になるなり、予科練に志願するなりして、戦場で命を落とす。そういう教育を何の疑問もなく教育されているわけです。
それが突然終戦になって考え方がガラッと変わってしまう。もう1週間も経たないうちに進駐軍がジープに乗って町にやってくるわけです。その瞬間から彼らがチューインガムをくれたり、チョコレートをくれたりすると、もうそれだけでアメリカ様々になっちゃうわけです。突然に入ってくる横文字も簡単に受け入れちゃう。アメリカ映画もどんどん入ってくるし、町はもう美空ひばりとか笠置シヅ子の流行歌がどんどん流れていく。

でも僕らより上の世代の人たち、*大島渚とか*野坂昭如とか、その世代の人たちは、中学生で終戦を迎えています。だからそれなりの高等教育を受けているから思想的に影響を受けていた。物心がついているから戦争は悪だとか、帝国主義の考え方はどうだとか、そういった思想的なものを通してものを考えた世代ですよね。
だから上の世代の人は、白黒をはっきり付けます。これはいいけど、これは駄目とかね。これは美しいけど、これは醜いとかね。思想がなかった僕らの世代は、洗脳はされたけども、思想的に洗脳されんじゃなくて、文化的に洗脳されたのです。これがいい、あれがいいと分別しないで、ごちゃ混ぜにする。何でもありで何でも受け入れるという、そういう自由な体質はもしかしたら、その辺りで出来たかもしれないですね。
*大島 渚
『愛のコリーダ』で検閲に抗い、芸術の自由を貫いた映画監督。『戦場のメリークリスマス』では世界に日本映画の存在感を示した。大島に影響を受けた映画監督は世界中に存在する。ジャン=リュック・ゴダールは本当の意味でのヌーヴェルヴァーグの最初の作品は『青春残酷物語』(1960年)であるとしている。
*野坂昭如
作家・作詞家・政治家として活躍した昭和~平成の文化人で、戦争孤児を描いた『火垂るの墓』。鋭い社会批評と、反権力的な姿勢で知られました。

心や魂は肉体の外に存在する
人はこの世に色々な理由があって生まれてきたと思いますけど、簡単にいえば死ぬために生まれてきているわけです。いくら美男美女でも大金持ちでも、天才秀才でも、死なない人間は一人もいない。だから死を避けて生きていくということは不可能です。
だから当然、死という問題は、生という問題と同等に切り離せないものだと思います。寺山修司は生が終わると同時に死も終わると言った、僕にとって生は最初から死んでいるも同じです。僕は肉体の死は脳の死、心や魂は肉体の外に存在するという持論です。死を恐れるのは、死が終わりだからと思うからです。死はむしろ始まりです。
僕はできるだけ自分が死んだと仮定して、死んだ状態でこの世界を眺めるということが出来れば、それが一番僕にとって生きやすい真の自由な生き方だと思っています。死を生きるのが芸術という行為なのですから。【了】
☞ 腹からやりたいことをやる。その勇気こそ創造だ。(1/2)

Profile
Name: 横尾忠則(よこお・ただのり)Tadanori Yokoo
DOB: 1936
POB: Hyogo
Occupation: 現代美術家
1936年兵庫県生まれ。国内をはじめ、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で個展。アムステルダムのステデリック美術館、パリのカルティエ財団現代美術館など各国で個展を開催。高松宮殿下記念世界文化賞受賞。2020年に東京都名誉都民顕彰、2023年文化功労者、日本芸術院会員。
近著に「昨日、今日、明日、明後日、明々後日、弥の明後日」(実業之日本社)「僕のY字路Painting」「僕とY字路Photograph」(トゥーヴァージンズ)など。2026年春にはイギリスのThames & Hudsonより500ページの作品集、ドイツから1,000ページのポスター集が世界発売される。
https://www.tadanoriyokoo.com/
https://ytmoca.jp/
moc graph オリジナル刺繍Tシャツです。USUGROWが描いたロゴがフロントに刺繍されたエクスクルーシブ・アイテムです。ブラックボディに白糸刺繍が映えます。コットン100%、丸銅、ダブルステッチ仕様。
■商品詳細
ITEM : mocgraph USUGROW LOGO TEE
SIZE : M / L / XL / XXL
COLOR : BLACK
QUALITY:COTTON 100%
■サイズについて
M:身丈69cm / 身幅52cm / 肩幅46cm / 袖丈20cm
L:身丈73cm / 身幅55cm / 肩幅50cm / 袖丈22cm
XL:身丈77cm / 身幅58cm / 肩幅54cm / 袖丈24cm
XL:身丈81cm / 身幅63cm / 肩幅57cm / 袖丈25cm
moc graph アジャスターストラップ仕様のキャップ。フロントにはUSUGROWが描いたロゴをエンブロイド。ほどよくハリのあるツイル生地。アメリカンテイストな浅め6パネルキャップ。金属クリップで55cm〜60cmのサイズ調整ができ、男女問わず人気のキャップです。
■商品詳細
ITEM : mocgraph USUGROW LOGO CAP
SIZE : Fits all
COLOR : BLACK
QUALITY:COTTON 100%
RECOMMENDS
-
MORE
白黒つけない、ごちゃ混ぜの世界へ。横尾忠則(2/2)
子供の頃に勝手に旅に出て捜索願を出されるような自由奔放さ、それを咎められ抑圧されていく中で、だんだんと人の目線や評判を気にしながら物事を判断し、だんだんと自分で考えたり、感情を素直に表現することができなくなる。 利得効率 […]
-
MORE
腹からやりたいことをやる。その勇気こそ創造だ。横尾忠則(1/2)
子供の頃に勝手に旅に出て捜索願を出されるような自由奔放さ、それを咎められ抑圧されていく中で、だんだんと人の目線や評判を気にしながら物事を判断し、だんだんと自分で考えたり、感情を素直に表現することができなくなる。 利得効率 […]
-
MORE
生活者として生きる Living as Human Beings (=not Consumer) 三宅洋平(2/2)
Chapter-2移住者文化から生まれるローカル・ヒーローLocal heroes born from Gypsy culture ******* 音楽家、政治活動家、社会活動家と活躍の場が多岐にわたる三宅洋平。彼の心根 […]