作る、闘う、継なぐ、また作る。造本家・町口覚、森山大道との初仕事を語る。(1/2)

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INTERVIEWS:
町口覚/ 造本家・グラフィックデザイナー・パブリッシャー

なんとなく手に取った書物。表紙、作家、版元、発行年… 自分がこれまでに体験してきた価値基準と照らし合わせていく。胸が高鳴る。捲れば感動と運命的な出会いが待っている。わずかでも費用対効果の良いモノを血眼に探しているわけじゃない、自分の人生を変えてくれる様なモノとの出会いを渇望している。

ー モノの価値 脈々 継承 ー

作り屋

餃子の皮だけ作りたくない。やっぱり餃子を作りたいじゃん(笑)。本のカバーをデザインするだけじゃなくて、本の紙も選びたいし、ひとつのプロダクトとして成立させたい。造本設計とは、本の構成・デザイン・用紙・印刷・製本という全てのモノづくりの過程に関与すること。

次の世代にも残るモノを作り続けられる環境、それを作ることも、俺はデザインだと思っている。覚悟を決めて、写真集レーベルを立ち上げ、自分の責任で写真集を作り、パブリッシュする、それをずっとやってきた。だから俺は、パブリッシュするグラフィックデザイナー。作り屋なんだ。

今作っている写真集レーベルのテスト印刷は、用紙5種/製版2種/印刷加工有無の20種類を比較しながら、どの組み合わせが一番この写真集に適しているかを精査していく。その過程で印刷現場のスタッフたちとコミュニケーションを図り、その写真集の印刷を極めていく。丁寧で、嘘がなく、妥協のないモノ作りを俺は常に目指し続けている。

パリ

毎年パリフォトのパブリッシャーズブースに出展して、自分が作った写真集を売っているわけだけど、俺にとってのパリフォトは、発表の場なんだ。それは、一年かけて自分が思い描いたモノを世界最高峰の場で発表するっていう事。それを繰り返しているだけ。もちろん出展する事で海外での販売に繋がっていくから、こうやって何年も続けられるわけだけど、根本はモノを作り続けるためにやっているんだ。

写真を産んだ国フランス、そのど真ん中のパリで毎年大々的に開催されるパリフォトからはプライドの高さを感じるし、写真集がどういうモノなのかを知る人たちが日本よりも圧倒的に多くいるのも身体で感じている。だから俺は、写真に携わる仕事をしている日本の人たちに「パリフォトに一度は来い!世界最高峰の現場を身体で感じに来い!」って言っている。

教育

俺たちのブースに来るパリのお客は、写真集を見て触って捲って、匂いまで嗅ぐんだ(笑)。写真集の見方がまったく違う。この違いは何だろう?ってずっと思っていた。それは教育の違いだと俺は思うんだ。要するに子供の頃から写真集が身近にあって、見て触って捲っていたって事だと思うんだ。

俺は親父がグラフィックデザイナーだったから子供の頃から写真集が身近にあった。親父の仕事場に行くと煙だ、酒だ、写真家だ、って怖そうな人たちが集まっていた(笑)。親父から「お前!あっち行け!」って言われながら、煙草の煙で一寸先が見えないようなところで遊んでいた。なんつったって初めてのオナニーがヘルムート・ニュートンだから、俺(笑)。そう言う意味では、親父がデザインで稼いでくれたお金で、俺の肉体が出来ている様なもんだね。だからデザインや写真集っていうコトやモノが、俺の日常には転がっていた。

だからまず写真集に接する。それも脳みそが柔らかい時期にね。子供の感性なめちゃダメだよ、大人たちより豊かだから。絵本の読み聞かせ改め、写真集の捲り見せ(笑)。もう聞かせなくていいよ!写真集は見れば感じるんだから。パリフォトのブースで日本語で喋ってるもん、俺。「町口さん、英語もフランス語も話せないのに、なんで海外の人とコミュニケーションが出来るんですか?」ってよく聞かれるんだけどね(笑)。

後悔の塊

作り屋の何が良いかって、失敗が出来る事だと思うんだよ。作る奴は、絶対に壊せる。作らない奴は、絶対に壊せない。別にどんなモノでも良いんだ。もう一回作ってみよう!って、思う事が大事なんだ。作り屋は、みんなそうだと思うし、やっぱりそれが原点だよ。

もう、ずっと修練していたい、完成させたくない、出来る事ならずっと作っていたい。あーだこーだやってる時が、俺は一番楽しい。ガウディもそうだった筈だよ。でも、そうしているとサクラダファミリアになっちゃう(笑)。仕方がないから作り終える。それは後悔の塊なんだけど、なんとか次に生きられる、生きようと思う気持ちを込めたい。また、次を作ろうぜ!生きようぜ!って、俺にとって本を作ることはそういう事なのかもしれない。

だから俺は、心を本に入れたい。あーだこーだやってる時に、本の中に心を入れるんだよ。それが出来たら出来上がった本を手に取る人たちも、きっと分かってくれると思うんだ。心を入れない本を作って「売れない」とか言うな!って思うもん。だって俺が作る本には心が入っているから、世界中どこへ行っても売れるもん。

ブレないモノ

ブレないモノって、やっぱり良いよね。フッと感じて、良いなって思うのは、ブレないモノや人だよ。写真家の森山大道さんもブレない人だよね。やっぱり写真が良いだとか、演技が良いだとかは当たり前で、やっぱりハートというのか、姿勢というのか、心なんだと思う。

「スマートフォンの普及で簡単に写真が撮れる時代だから、みんながみんな写真家だ」なんて言われることもあるようだけど、そうじゃない。写真は、その人だから。写真家のやっている行為は、すべてがセルフポートレートなんじゃないかな。だから森山大道の写真が良いんじゃなくて、森山大道が良いんだと思うんだ。一枚だけ撮るんだったら俺が撮っても、誰が撮っても同じだよ。インスタ映えする一枚だったら、隣にいるお姉さんの方が上手に撮る。でも、写真はそうじゃない。写真はその人自身が写る。その覚悟が出来るかい?そしてそれを一生続けられるかい? それが出来るのが写真家だと思うんだ。

その写真家の写真を記録、記憶に残すために写真集がある。そして造本家は、唯ただその写真家の写真を見て感じて造本設計する。愚直にやれば必ず良いモノが出来るはず。ブレないモノがね。

古賀俊輔

雲の上の存在だった森山大道さんに、初めて撮影のお願いをした時の事はよく覚えている。作家の柴崎友香さんのデビュー作が原作になった映画『きょうのできごと』の宣伝美術をやった時、それぞれの若者たちの一日が断片的に展開されていく内容だから、それぞれの若者のエピソードと世界観を、野口里佳さん、野村佐紀子さん、*吉永マサユキさん、そして森山大道さんの写真家4人にそれぞれ撮影してもらう事にした。

*吉永マサユキ
1964年、大阪十三生まれ。水商売、テキ屋、運送業などの職を経て、児童福祉士を目指すが写真家になる。暴走族の若者を撮った写真集『族』(リトルモア)は代表的な作品のひとつ。他にもチーマー、コギャル、在日外国人と、日本に住むマイノリティを撮り続けてきた。近年は、新宿南口で工事現場仮囲いの壁に新宿で生きる人々のポートレイトを展示するプロジェクト「新宿ID」に参加。ルーニー・247フォトグラフィーが主宰する写真のワークショップ「resist」では、塾長を務める。

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NOGUCHI Rika
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YOSHINAGA Masayuki
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NOMURA Sakiko
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MORIYAMA Daido

田中麗奈さんと妻夫木聡くんを野口さん、池脇千鶴さんと松尾敏伸くんを佐紀子さん、柏原収史くんと三浦誠己くんと石野淳士くんの男子3人組を吉永さん、そして伊藤歩さんをピンで大道さんに撮ってもらった。当時、色々書いて大道さんにファクシミリで撮影の依頼をしたけど、スケジュールの都合で断られた。それでこの映画のプロデューサーの*古賀俊輔さんに「3人の写真家は撮影を引き受けてくれたけど、森山大道さんには断られました。ここのパートだけ写真家を別立てして撮影すれば、何とか映画の公開に間に合うかな……」って言い訳を並べた俺に、

古賀「お前は、それでいいのか?」って言われた。
町口「だって公開に間に合わないかもしれないし……」って言ったら、
古賀「お前さ、この映画のプロデューサーは俺だよ。お前の森山大道さんに対する思いは、そんなものなのか?」って言うんだよ!そうなったら、
町口「俺は、森山大道さんに撮ってもらいたい!」ってなるじゃん!
古賀「だったら、やれよ!」って。カッコいいよね(笑)

*古賀俊輔
出版、テレビ、ビデオ、音楽の世界を渡り歩き、現在は劇場用映画の企画制作をする株式会社ザフールを設立し、代表プロデューサーとして活動。主な作品「私立探偵濱マイク」(映画版3作品+連続ドラマ版12本)、Netflixオリジナル「火花」劇場用映画「ナラタージュ」「殿、利息でござる」「母性」「ひとりぼっちじゃない」「サイドバイサイド」「はざまに生きる、春」「遠いところ」「OUT」など。https://thefool-inc.com

森山大道

だったら、やるよ!ってことで、大道さんを口説き落として、新宿の喫茶店で初めて会う事になった。俺の中では、葉山の長者ヶ崎で大道さんに撮ってもらうって決めていた。映画の話や、企画を説明して撮影場所の話になった時、

町口「森山さんが中平卓馬さんと一緒に過ごした葉山で撮影したいんです、俺」って言ったら、
森山「じゃ、久しぶりに行ってみようか」ってことになり、
町口「撮影の時、何かリクエストはありますか?」って、話の終わりに聞いたら、
森山「真っ黒な車を一台、用意して下さい」って。カッコいいよね(笑)

撮影日、その真っ黒な車に歩ちゃんを乗せて、葉山の海を流しながら撮影して、最後に夕暮れの長者ヶ崎で撮了した。俺らの仲間が運転する車に大道さんも一緒に乗り込んで、渋谷駅の近くで大道さんが車から降りる時に「これ、全部渡すから」って、撮影済みの白黒リバーサルフィルムが何本も入ったコンビニ袋を俺に手渡し「あっ、もし写ってなかったら、君のせいだから」って、大道さんが言ったんだ。

その時は「えっ?俺?」みたいな感じだったけど、今になって思うのは、やっぱりそんな事を言える相手って少ない。つまりそれは、「お前、いいモノ作れよ」っていう大道さんから俺へのメッセージで、俺だから任せようって思ってくれたんだって。

そんな事を思うと、もしかしたら寺山修司さんも大道さんに「お前、いいモノ作れよ」っていうメッセージを送っていたのかな?って、想像しちゃう。以前、大道さんと呑んだ時、「寺山さんの話を聞かせて下さい」って言うと、大道さんはいつも「寺山さんは、とにかくカッコよくてさ」って言うんだよ。俺も大道さんを、とにかくカッコいいって思うもん。だからその人と人との関わりが受け継がれていくことは面白い。もちろん時代も変わるし、受け継ぎ方、表現は変わっていくけど、心なのかな、ブレないモノがピシーッと、背がスーッとあるっていうのを強く感じるよね。(PART1了)

☞手にとれるモノ、それを手に取るかどうかは、目に見えないモノが働いている。(2/2)※6/22(土)正午公開予定


町口 覚(まちぐち・さとし)
造本家、グラフィックデザイナー、パブリッシャー
1971年東京都生まれ。デザイン事務所「マッチアンドカンパニー」主宰。日本を代表する写真家たちの写真集の編集と造本設計、雑誌・書籍のエディトリアルデザイン、映画・演劇・展覧会の宣伝美術など幅広く手掛ける。2005年、自ら写真集を出版・流通させることに挑戦するため、写真集レーベル「M」を立ち上げると同時に、写真集販売会社「bookshop M」を設立。2008年から世界最大級の写真フェア「PARIS PHOTO」に出展を続け、世界を視野に日本の写真集の可能性を追求すると同時に、日本の優れた用紙・印刷・製本の技術を世界に伝える責務を全うしている。

MATCH and Company Co., Ltd.
http://www.matchandcompany.com
bookshop M Co., Ltd.
https://bookshopm.base.ec

【CURRENT WORKS】


山上新平写真集「KANON」
写真・文章:山上新平
文章:幅允孝
編集・造本設計:町口覚
デザイン:清水紗良(MATCH and Company, Ltd.)
判型:縦228mm/横171mm
頁数:本文200頁
写真点数:116点
仕様:フナオカキャンバス貼り丸背上製本
表紙・裏表紙に題箋貼り
背表紙にタイトル箔押し
スリーブケース入り
言語:日英表記
定価:11,000円(税込)
発行:bookshop M
発売:2024年7月1日発売
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刊行記念展のご案内
【東京】POETIC SCAPE
2024年5月18日(土)→ 6月30日(日)
【八戸】八戸市美術館 ギャラリー1・2
2024年7月26日(金)→ 8月7日(水)
【福岡】本屋青旗
2024年8月23日(金)→ 9月8日(日)
【京都】PURPLE
2024年9月14日(土)→ 10月6日(日)
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